読書シリーズF「日本を壊す政商」

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「日本を壊す政商」森功著、文芸春秋社
著者の森 功氏は、よくぞここまで踏み込んで取材したものだと感心・・。
今後とも、この人の本は読んでみたいものです。
私の忘備録めもから一部を引用してみる。

『東京・元麻布に、江戸時代に旗本たちの武家屋敷が軒を連ねた一角がある。いまはすっかり様変わりし、小洒落たマンションが目に留まる閑静な住宅街となっているが、一軒だけ、まるで三百年前に時代を巻き戻したかのような古い日本家屋が鎮座している。そこはかって“迎賓館”と呼ばれた。
 古民家風のその屋敷の門前には、夜ごと黒塗りのハイヤーや高級ワゴン車が横付けされ、華やかな宴が繰り広げられた。
その宴席が二〇一四年五月の事件を境に、ぱたりと途絶えることになる。近所の人はおかげで静かになったと喜んだ。』
その事件とは、ASKAの覚醒剤事件のことである。
 『言うまでもなくASKAは、(パソナ代表)南部(靖之)が主催してきたパソナグループの迎賓館「仁風林(じんふうりん)」のパーティに参加してきた常連客の一人だ。人気歌手の覚醒剤事件は、パソナの怪しげなパーティに飛び火し、宴の場となった仁風林もまたすっかり有名になった。ASKAと深い仲に陥り、マンションでいっしょに覚醒剤を使用した共犯者として警視庁に逮捕された栩内香澄美(ともないかすみ)は、パソナのグループ企業の社員でもあった。二人は仁風林のパーティで知り合ったとも伝えられる。
 二人の覚醒剤事件でのせいで、仁風林で週に二度ほど開かれてきた有名人接待が評判になり、パソナはその対応に追われた。あくまでパソナは仁風林を社員の福利厚生施設と釈明してきたが、世間はそうは受け取らない。おかげで事件以来、開店休業状態となり、南部自身もパーティを自粛してきた。・・・・』

本編の主題とはかけ離れるが、ASKA事件について、生々しい逮捕現場の様子も微に入り細に入って書かれている。

『逮捕の当日、ASKAに任意同行を求めた警視庁の捜査員たちは、二手に分かれた。言うまでもなく一つはASKAを連行する班だ。それとは別に女性の捜査員を含む四人の麻薬捜査官が栩内香澄美のマンションを襲った。
 栩内の住む南青山のマンション一階のロビーは、オートロックで施錠されている。通常、訪問者は相手の部屋のインターフォンを鳴らす。しかしこの日、彼女の部屋のインターフォンは、電源が落ちていてオフになっていた。ASKAが部屋にいるとき、他の来訪者を気にするため、電源をおとすようにしていたためだ。
 普段なら彼女はASKAが部屋を出るとオンにするようにしていたが、たまたまこの日はそれを忘れていた。というより、性交をしたあと、睡眠薬のサイレースを飲んで泥のように眠りこけていたからである。
 栩内は朝になってASKAが外出したことにも気づかなかった。そのためオートロックの電源をオンにするのを忘れてしまった。
 そこへ、ドアをたたく大きな音がした。
 ドンドン、ドンドン。
 そばで寝ているはずのASKAはいない。彼女は、ASKAに合鍵を渡していない。そのため、意識が朦朧とするなか、ASKAがいったん外出して戻って来たのか、と瞬間的に思った。合鍵がないということは外出しても、鍵をかけられないのでそんなはずはないのでが、そこには思いがいたらなかった。そこへASKAとは似ても似つかぬ野太い声がした。
「警察です。すぐに開けてください。」
 栩内は素っ裸だった。
「服を着ますので、ちょっとだけ待ってください」
 彼女はそう答え、服を着てから、玄関のドアを開けると、そこには女性の刑事を含め四人の捜査員が立っていた。
 麻薬捜査でマンションの部屋を家宅捜査する際は、ロビーのインターフォンなどは鳴らさない。いきなり目当ての部屋まで直行し、ドアをたたくのが常道だ。もたもたして覚醒剤の粉末などをトイレに流されては元も子もないからである。捜査はスピードが勝負だ。そうして四人の刑事が部屋に上がり込んだ。いわゆるガサ入れだ。
 捜査員たちは、そこで生々しい二人の生活を目の当たりにする。部屋の奥にシングルベッドが置かれていて、その手前にマットレスが敷かれていた。あまりにもベッドが狭いため、ASKAが訪ねてきたときは、いつもそこで交わった。
 豪華なマンションという報道もあったが、実際に部屋は驚くほど質素だった。1DKで家賃は月額十五万円。うち十万が勤め先の「セーフティネット」という会社から彼女に家賃補助として支給されていた。したがって本人ンオ家賃負担は五万円で済んだ。
 捜査員たちはスピーディに、くまなく部屋中を捜索した。床に散らばっている四つの携帯電話とテーブルの上に置かれたタバコや灰皿などの写真を撮った。使ったばかりのティッシュが、そのままテーブルの上にあった。それに、洗濯機のなかに放り込まれていた汗まみれのバスタオル・・・・・。ASKAは異様な汗かきのため、ぐっしょり濡れて重い。捜査員たちはそれらを次々と押収していった。
 だが、残念ながら薬物そのものは、部屋にはなかった。すると、覚醒剤の所持や使用を立件するには、部屋に残留する薬物反応に頼るほかない。
 ちなみに栩内のマンションの換気扇から微量の薬物反応が出たという報道もあったが、正確にはエアコンのフィルターから検出されたものだ。おそらく二人のどちらかが、あぶりと呼ばれる吸引によって覚醒剤を吸い込んだとき、エアコンのフィルターに付着したものだろう。
 ASKAは、この部屋で日ごろから異様な行動をとっていたようだ。
「ここは盗聴されている。ほら、あそこに盗聴器がある」
 そう言って室内のスプリンクラーをアルミホイルで覆い、ガムテープで止めていた。ASKAが部屋を訪ねるのは決まって真夜中だ。薬物を使って濃厚な性交をしたのち、朝には自宅に戻った。』