WB工法が考える「日本の家造りを歪めた50年」

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「なんで、どうして、ありえない!」(日本建築文化を再興する会)より引用

●呼吸する伝統工法のすばらしさ
 高温多湿で四季があり、地震も多い日本には、世界に誇れる木造住宅建築の技術が受け継がれてきました。木の性質を知り尽くした棟梁は、木の生命力や特性を技術の中に生かしてきたのです。
 日本では古くから発達してきた伝統工法を継承した木造軸組住宅(在来工法)は、建物を支える構造が、土台、柱、桁、梁、小屋組(屋根)からできています。
 土台には蒸れ・腐れや害虫に強いクリ・ヒノキ・ヒバなどが使われました。柱は地面に生えていた時と同じように「末」を上に「根」を下に建てます。樹木が水分を根から吸って枝葉へと送るように、湿気を上に上げて根腐れを防いだのです。「逆さ木」は家の繁盛にも縁起が悪いとされました。

 壁は竹や葦といった天然素材を組んだ「小舞(こまい)」という下地に、60ミリ程度の厚さの粘度を塗って壁体工法としたのです。地震の際には柱と壁の間で力を分散し、貫(ヌキ)がスプリング役となって力を吸収し、傾いても全倒壊しない二枚腰の構造でした。地震の力を硬直的な強さによって制するのではなく、柔軟に吸収して住む人を守ってきたのです。
 こうして伝統的な知恵と技術がたくさん受け継がれてきましたが、今では木へのこだわりはなくなり、合板で囲った「箱」に省略されています。
 在来工法の高い技術は、家の強度を保つだけでなく、住む人の健康にも大きく貢献してきました。
 昔ながらの塗り壁は、日本の高い湿気を吸収し、併せて化学物質や生活臭も」吸着透過する皮膚呼吸の作用をしていたのです。塗り壁は、まさに左官屋さんの腕の見せ所です。自然素材の粋を集めた漆喰京壁は世界に誇れる技術ですが、コスト面から激減しています。本格的な塗り壁でなくても、新建材でこうした技術は十分応用できるので、今後、地場建築業者は呼吸する素材を使って「進化した木造住宅」を追求していきたいものです。
 こうした優れた日本の建築文化も、現代において二度、大きな過ちを犯しています。
 一度は戦後復興期に構造が簡素化され、桁材の寸法も4寸×6寸(しろくの桁)から3.5寸×3.5寸(さんごう角)へと地震に耐えうるものでなくなってしまいました。家の倒壊を防ぐ「通し貫」は、昔は8分×4寸「はっしの貫」が常識でしたが、戦後は5分×3寸が主流となり「誤算が生じた」と言われています。
 これは戦後の物資不足、資材不足の中で「質より量」が求められた背景もあるので、やむを得ない面もありますが、阪神大震災においては「木造住宅は弱い」という悪評につながりました。
 明治〜大正期の建築方法をすべて現代住宅に取り入れろと言うわけではありませんが、「呼吸する日本の建築文化」は、住む人の健康と家の耐久性を高める要だったのです。
●合板・ビニールによる窒息住宅の登場

 二度目の過ちは、1970年頃から始まった住宅の量産化です。量産をするための絶対条件は、工場生産が可能な均一化した住宅の供給でした。
 在来工法が柱や梁といった軸組(太い骨)で支えられているのに対して、プレハブ住宅は軽量鉄骨を軸として合板やビニールなどの新建材で囲った造りになります。
 プレハブ住宅は、床・壁・屋根に合板、壁や天井にビニールやビニールクロスを貼るため、「家の呼吸」が止まり、化学物質や湿気がこもり、住む人の健康と家の耐久性が損なわれることになりました。

合板は何層もの接着剤がビニールと同様に作用するため、呼吸を止めているのです。
 合板・ビニールの高気密住宅を人に例えると、ナイロンの下着の上に一年中セーター(断熱材)を着て、さらにビニールの合羽を着こんだ状態です。かいた汗は発散されずに服の中に留まって、体調不良や病気の原因になるのです。
 壁の中には厚さ100ミリの断熱材が入っていますが、密閉されているために夏には壁や天井は50℃〜70℃の焼け込を蓄熱しています。これは真夏に冬布団を直射に干した上で、それを掛けて寝ているようなもので、人工的な熱帯夜となっており、エアコンが欠かせなくなります。
 この頃、アルミサッシが普及して、入口ドアや窓の気密性能が一段と高まり、住宅の窒息化に拍車がかかりました。
 1975年頃からは、学識経験者が量産住宅を推奨し、公庫が金利を優遇。国が省エネ・高性能とうたって、窒息した「高気密住宅」が急増していきました。
●超稿気密な2×4住宅で一段と窒息

1985年頃からは、日米貿易摩擦を解消するために2×4(ツーバイフォー)住宅が交換条件として輸入されることになりました。工場生産が可能な日本生まれのプレハブ住宅と米国育ちの2×4工法は、日本の木造建築より優れた工法だと謳われ、大手資本のもとで売り出されました。
 2×4は「合板パネル住宅」とも言われます。プレハブが軽量鉄骨を軸にしているのに対して、2×4工法は下地材の細木に合板ベニヤを無数の釘で打ち付けたパネル状の面材で支えています。つまり、家に軸や骨格がありません。枠材などの主要な部分が、2インチ×4インチサイズ等の規格品で構成されることから、2×4工法と通称されています。プレハブ住宅をより簡略化した方式で、「超高気密住宅」となります。
 主体の合板ベニヤの耐久性が生命線ですが、高温多湿の日本ではプレハブと同様、無数に打ち付けた釘が結露して錆び、合板を腐食しています。大量供給のために工場生産された合板ビニール住宅は日本の風土に合わず、結露という問題を長年抱え込んでいるのです。
 北米で生まれた2×4工法は、乾燥地に適した工法です。しかし、湿度の低いカナダやアメリカにおいてもシックハウスを引き起こしているのが現状です。
 この合板パネル住宅(2×4)を湿度の高い日本で普及させるためには湿気に弱い合板を保護する必要がありました。そのため、合板の外側と内側にビニールシート(防湿気密シート)を張って結露対策としました。

 しかし、湿度の高い日本では、合板の寿命はせいぜい15〜30年程度の実績しかありません。下図の写真は風通しの良い立地ですが、合板は見る影もないほどに劣化しています。合板の木部と接着剤が「自然に」剥離を起こしたのです。
 合板は優れた建築材料ですが、万能ではありません。劣化の限界を超えた主要部への使用は大変危険なのです。

●学者と国が誘導した窒息住宅
 ビニールと合板による高気密住宅では家の湿度が上昇するため、結露やカビ・ダニが発生し、化学物質(ホルムアルデヒドなど)がこもる窒息住宅となります。ところが、1994年頃から、学識者が「高気密は省エネルギー」と唱え始め、国もそれを後押しした結果、プレハブや2×4は着工棟数を伸ばしたのです。
 その2年後、家に蒸れ腐れが出始めると、学識者は「中途半端な気密工事が悪い」と言い、超高気密の施工を指導しました。「中途半端な工事が悪い」のではなく、「湿気や化学物質が抜けない、合板を主体とした高気密住宅が悪い」のですが、机上だけで考える学者は実態を知りません。
◆問題発生 第一弾
 問題発生の第一弾として1996年、建設省(当時)は「建設白書」の中で、「現代住宅は26年が寿命」と発表しています。これはプレハブ住宅が導入されて26年が経ち、壁にカビが発生し、壁の中の蒸れ・腐れが表面化して、住宅の短寿命化が進んだことを如実に物語っています。一般的な35年ローンの場合、親のローンを9年残して、建て替えのため子供がまた新たに35年ローンを組むということになります。
 壁の中の様子は目に見えないため、壁体内の蒸れ・腐れは隠れたまま26年が経過して、造り手も買い手も問題意識を持つことはありません。施主は親子2代にわたるローン地獄から抜け出せない仕組みが出来上がりました。在来工法に取り組む棟梁たちにとっては、26年という寿命は到底納得できるものではありません。
◆問題発生 第二弾
 こうして学識者が推奨するビニール張り高気密住宅は、1998年にアレルギー、ぜんそく、めまい、吐き気、倦怠感などの症状による「シックハウス症候群」を発生させました。これが問題の第二弾です。厚生労働省が全国24カ所を調査したところ、高気密住宅にこもるホルムアルデヒドは0.48ppmと指針値(0.08ppm)の6倍を検出しています。しかし、厚生労働省は「現代住宅は昔とまったく異質なもの・・」と述べて、高気密との因果関係には触れていません

 国土交通省は2003年、急遽作成した「品確法」で24時間の機械換気を義務化しました。これは裏を返せば「ビニール高気密住宅に住むと病気になる」と言っているのと同じです。建築材料について化学物質の規制をしていますが、住宅の構造的な問題を避けて通り、ビニール気密を野放しにしています。
 学識者は気密性が住宅性能のすべてと言わんばかりに、ビニールを張って目張りすることを棟梁たちに指導しました。健康だった在来工法も、パネル住宅同様にビニールが主役の家造りになり、「C値(相当隙間面積)」の追求が始まったのです。これは床面積1m2当たりの隙間面積(cm2)のことで、住宅の気密性を表しています。この数値が小さいほど気密性が高いとされ、2.0〜5.0cm2を「気密住宅」としています。このC値による判断を学者が煽ったため、0.5とか0.2cm2にまで気密が高まりました。
 しかし、機械換気義務化による1日12回の空気の入れ替えは、1時間に0.5回となり、これはC値でいうと10cm2程度の隙き間に相当し、動力を使った隙き間だらけの漏エネルギー住宅となっています。機械換気の家は、実は高気密ではないのです。
◆問題発生 第三弾
 問題の第三弾は、換気の義務化によって、ダクト内からカビ・ダニの死骸や糞が吹き出し、子供がぜんそくになる一方で、カビは慢性蓄膿症といった新たな弊害をもたらしていることです。慢性蓄膿症は初期症状が花粉症と似ているため、認知されていない潜在患者が多いのです。

◆問題発生 第四弾
 第四の問題は、日本の地域全体を巻き込んだ社会基盤の崩壊です。品確法が木材を不要としたパネル工法を優良と評価しているため、量産化住宅の弊害は各方面に及びました。健康住宅や住宅の短寿命化といった直接の弊害に留まらず、建築に携わる地場産業は衰退し、製材業は多くが廃業に追い込まれました。日本の森林は荒れ、地域の建築業者は若者の雇用ができなくなり、棟梁などの技術者が育たなくなっています。
 二度の過ちから45年が経過しました。それは1300年にわたって受け継がれてきた日本の建築技術・建築文化が崩壊してきた歴史です。しかし現在、若い世代では量産による合理化住宅を進化した日本の建築文化だと捉えるところまで錯覚を起こしています。
●「機械換気不要」の特別評価(建築基準法施工例20条の7)

 株式会社ウッドビルドでは、在来工法の長所を生かしつつ、「冬に寒い」という従来の短所を克服した新工法の開発に1998年から取組ました。昔の土壁による呼吸を現代的に進化させた壁体内自然換気システム(通気断熱WB工法)です。これによって冬の寒さ対策はもちろん、結露・蒸れ・腐れ・劣化、化学物質や生活臭のこもり、カビ・ダニの発生などすべての問題を解決することができたのです。
 その裏付けとして、WB工法の新築住宅200棟以上の測定をしてきたところ、指針値の半分の0.04ppmで、偶然にも室内に化学物質はほとんどなかったのです。
 しかし、前記の通り国土交通省が「品確法」において24時間の機械換気を原則義務化したため、WB工法は換気装置がなくても室内に化学物質がこもらないことを証明しなければなりません。ホルムアルデヒドを空気1m2につき0.1ミリグラム以下に保つことができるものとして国土交通大臣の認定を受ける必要が出てきました。
 国はこの基準を評価する際、住宅の性能審査を行う第三者機関として「指定住宅性能評価機関」を設置しました。大手メーカーが財産(金と人)を拠出した機関が評価と認定審査を大臣から委託され、大臣はその審査結果を受けて認定する仕組みが出来上がりました。
 こうした仕組みの下で、合板・ビニール住宅を優遇する品確法の住宅性能基準がつくられ、機械換気設備を備えた「無呼吸のビニール高気密住宅」が推奨されています。
「換気設備無し」での認定(特別評価)を得るため、ウッドビルドでは1999年から大学と共同で行ってきた、WB工法の新築住宅200棟分の実測データーをまとめ、透湿高気密住宅には化学物質がこもらないkとを実証しました。
 そのデータを持って、2003年4月に初めて国土交通省を訪ねましたが、認定を受けるまでに3年4か月、62回に及ぶ面談・審査を受けなければなりませんでした。国土交通省としては24時間の機械換気しか念頭になかったようで、その他の工法・システムはまったく想定外だったようです。
 1年8カ月が経過した2004年12月にようやく申請の段階までこぎ着けました。翌年1月から性能評価委員会による技術的審査がスタート。この技術的審査には実に13カ月を要しました。その第一回委員会の会場には6名の審査委員(学者)がいましたが、私たちの申請内容は冒頭で根本から否定されたのです。「我々は5年間かけて、ありとあらゆる角度から検討した結果、機械換気より他に方法がないという所にたどりついた」
 その後も委員との話はなかなか噛み合いません。国交省が「換気不要」の原理を認めて基準を作ってくれたから申請しているのに、委員は機械換気の基本的な考え方や意義を力説するのです。
●透湿・透過に関する学者の間違い
 委員の主張は次の3点に集約されます。
@石膏ボードはホルムアルデヒドの遮断材である。
Aホルムアルデヒド以外の化学物質も低減しなければならない。
Bよって室内空気の改善に機械換気は万能である。
 石膏ボードはプラスターボードとも呼ばれます。石膏を主成分とした素材を板状にして紙で包んが建築材料で、壁や天井に広く使われます。昔の塗り壁を簡素化した機能があり、優れた材料です。
 我々の「通気断熱WB工法」は、壁が湿気や化学物質を透過することを1つの前提としえいます。したがって、@の石膏ボードがホルムアルデヒドを遮断するのか、透過するのかは、この工法が認定されるかどうかの重大な論点です。

 我々は2001年5月から九州大学大学院生物資源環境科学部の森田研究室と共同で、壁の透湿・透過のメカニズムの研究を進めてきました。具体的には「石膏ボードのホルムアルデヒド透過試験」です。
 その結果、室内のホルムアルデヒド濃度は開始時の0.44ppm(実測値)から5時間以内で初濃度の2分の1以下程度まで低下し、48時間後には0.073ppmという数値を示しました。(右図)
 図4は化学物質や水蒸気が石膏ボードを透過する原理を示したものです。化学物質や水蒸気の分子は1000万分の1ミリの大きさですが、石膏ボードや土壁には1000万分の1ミリの穴(微細孔)があるので、透湿・透過が可能なのです。
 この原理は、信州大学の鈴木孝臣助教授が電子顕微鏡による石膏ボードの撮影と、水蒸気とホルムアルデヒドの分子及び集合体について質量分析等によって解析したものです。(2004年)
 これらの試験結果により、水蒸気や化学物質のすべては濃度勾配の原理によってミクロの微細孔から壁を透過し、室内にはこもらないことが分かりました。濃度勾配の原理とは、濃度差がある部部においてそれを均一化しようという分子の動き=移動が生じるというものです。「壁の呼吸」=「透湿・透過」が明確に立証されたと言えるでしょう。
 しかし、これらのデータを提出しても、審査委員は「透湿・透過」の「透過」は認めましたが、「透湿」は認めませんでした。一連の経過をまとめたのが表1です。建築業界に携わる方々はこの表を熟読して建築行政の実態を理解していただきたいものです。
 2006年5月、評価機関は通気断熱WB工法について「室内換気を具備せず機械換気0.5回/時以上に相当する透過を備えている構造方法と評価する」とする性能評価書を作成。8月11日に特別評価の第一号として大臣認定に至りました。(認定書番号RLFC−0001)。
 我々としては時間的・費用的な限界も感じつつあったので、「透過」だけでの認定でも妥協せざるを得ませんでした。しかし、未来の子供たちの健康を考えると、歯がゆいばかりです。
 国交省も評価機関も関係者の中には悪い人はいないのですが、ガチガチに融通の効かない仕組みが出来上がっています。これは、国や学識者が50年にわたって推奨・促進してきた構造からシックハウスが発症したことを認めることができないというところに、問題の本質があると言わざるを得ません。50年の住宅の歴史がそれをはっきりと証明しているのです。

●通気断熱WB工法は呼吸と衣替えの家
 温暖な地域でも寒冷な地域でも必ず夏と冬がありますが、その四季の変化に対応したのが「通気断熱WB工法」です。

 この工法は、壁に湿気が透過する素材を使い、壁の中に断熱層と通気層を造る構造です。冬には壁の中の通気を絞って断熱保温層とし、夏にはその通気を開放して熱を放出します。冬には家がセーターを着たように断熱材と保温層をまとい、夏には下着に汗を吸わせて発散させるように断熱材の内側に通気が上がり、熱と湿気を自動的に排出します。つまり、自動的に家の呼吸が制御されており、昔の土壁による呼吸を現代版に進化させた工法です。
 家の各ポイントに自然の温度を感知して自動的に開閉する「熱感知式形状記憶合金・自動開閉装置」を取付け、四季に応じて自動的に空気を絞ったり通したりする、家が衣替えするシステムです。WB工法のWはダブル(二重)の通気層、Bはビルダーとブレス(呼吸)を表しています。
 「家の呼吸」と言っても、それは「すき間」による空気の出入りを意味するものではありません。地域によって異なりますが、かべの中には通常120ミリの空間があり、そこへ65ミリ〜95ミリの断熱材を入れています。残りの空間が通気層となりますが、通気断熱WB工法はこの通気層が床・壁・天井に貫通することによって家全体と各個室に呼吸をさせるのです。
 「家の呼吸」は、室内の壁が皮膚呼吸のように常に湿気を通過させ、その壁の中に入った湿気や化学物質を気管支呼吸のように第二通気層から屋外へ排出する仕組みです。冬には通気層から放出するだけでは室内が寒くなりますが、熱換感知式形状記憶合金によって通気層を絞って保温層とします。第一通気層は通年オープンにして屋根・壁の結露を防止しています。

 四季の変化が大きい日本において、在来工法は冬の寒さに弱点を抱えていましたが、これを克服したのが通気断熱WB工法です。
 一方、夏の暑さに対しては第一通気層が焼け込み防止層として機能します。
 夏に太陽の直射を受けたサイディング壁は50℃、トタン屋根は70℃前後にまで上昇しています。こうした受熱が10時間近く続き、断熱材も40〜50℃の蓄熱をしています。これが合板ビニールの高気密住宅が夏に暑い主因です。その焼け込みを、木陰をつくったように遮って逃がす冷却層としての役目を第一通気層と第二通気層が担っています。
 通常、真夏でも床下の地温は23℃程度なので、23℃(I床下)、35℃(外気)、50℃(屋根の蓄熱)という温度差が生じています。この温度差によって発生する上昇気流は、床下の23℃を第二通気層へ引き上げ、家全体を冷やして棟換気口へと抜けていきます。また、夏に盛んに発生する湿気や化学物質は透湿壁を透過した後、第二通気層から排出されるのです。これによって熱帯夜を感じることはなくなり、エアコンの使用頻度は10分の1程度に下がります。
 在来工法がもともと備えていた「家の呼吸」を、動力を使わない壁体内自然換気システムとして進化させたのが通気断熱WB工法です。家が丸ごと空気清浄器なのです。
●見落としがちな湿気対策
 住む人と建物の健康を左右する要素として、化学物質と並んで重要なのが湿気の問題です。
 家の中で人が生活をすると、多くの水分が室内に放出されます。就寝中も含め、人がいるだけでもかなりの湿気が放出されますが、調理や食事、洗濯物の室内干しや観葉植物などから
4人家族の場合で1日に約6リットル(大きなペットボトル3本分)の水分が放出されています。これだけの量を毎日床に撒いているのと同じです。

 木造住宅は本来、木材と壁が常に湿気を吸収・放出しています。40坪の住宅の場合、木材は80石(20トントラック1台分)必要ですが、その木材が吸収・放出する水分は約3トンの調湿能力があるのです。これが「家の呼吸」の一要素です。4人家族が出す1日6リットルの水分量の500日分に相当する量を、壁や木材が吸放出しているのです。
 ところが、合板やビニールなどの壁の場合、こうした湿気は部屋の湿度を即座に上げていき、湿度は80〜90%にまで高まります。その水分が飽和状態になると、まずサッシやガラス、ビニール、ドア、巾木などに結露し、最後には床に降りてきます。床にはホコリやチリ、汚れがあるため、カビやダニが繁殖しやすい環境となってしまうのです。
 透湿・透過をする壁であれば、部屋の湿度が60%以上になることは少なく、結露やカビ・ダニは発生しません。湿度が60%以下であれば、室内の空気環境は快適に保たれます。
 湿度によって結露の進行は大きく左右されますが、素材によっても大きく異なってきます。手頃な例として、同じ条件で水を入れたコップを比較すると、湿度70%の場合、紙コップは10℃、ガラスコップは3℃、プラスチックコップは4.5℃の温度差で結露します。(上図)

つまり、合板を止める釘やビス・補助金具は3℃の温度差で結露するのに対して、木材・紙類は10℃前後まで結露を起しません。
こうした素材による湿度と結露の関係を実験した結果が右図と図8です。壁に布クロスを使った部屋とビニールクロスを使った部屋で、それぞれ暖房機の前に1.6リットルの水分を含ませたタオルを吊るし、時間経過の中で湿度と結露の様子を記録したものです。
 ビニールクロスの部屋では、開始から30分で窓が曇り、1時間でサッシに水滴が現れます。2時間半で巾木が濡れてカーペットも湿っぽくなり、3時間経過時点では体が湿ってしまい、厳しい寒さを感じました。開始から10時間後にも、タオルは多量の水を含んでおり絞れば水が出る状態です。

 一方、布クロスの部屋では、30分経過しても窓に曇りはなく、1時間半でタオルから床への水滴が止まりました。10時間後にサッシの 敷居に少々結露が見られましたが、タオルは脱水機で絞ったより若干湿っぽい程度でした。
 このように建築素材の洗濯によって、家の結露はほぼ防ぐことができるのです。壁に透湿材を使用すれば、部屋の中で洗濯物を干したり、観葉植物に水をやっても湿度は35%〜50%に保つことができ、窓には結露はほとんどありません。
 にほんは季節による湿度の変化が大きく、真夏には90%にも達します。ビニール高気密住宅の場合は、室内の湿度が80〜90%に達することが少なくありませんが、呼吸する高気密の家では65%を超えることはほぼありません。室外の湿度は一日の中で40〜50%も変動することがあるので、壁や木材の調湿機能は極めて重要なのです。
 法隆寺の五重塔が1300年も維持されているのは、呼吸する木材や壁に蒸れ・腐れがなく、建築当時に計算された強度が永年保たれていることを証明しています。法隆寺に限らず、部屋の壁や柱に湿気を吸収・放出できる素材を使った呼吸する家では、生活臭や化学物質が湿気とともに室外へ放出されるのです。
 我々は湿度と化学物質の問題を別々に考えがちですが、シックハウスの原因となる化学物質は、実は湿度に大きな影響を受けているのです。
 35〜38%のホルムアルデヒド水溶液をホルマリンと言いますが、ホルムアルデヒドは水溶性で水によく溶ける性質を持っています。したがって、室内の湿気の高い場所ほどホルムアルデヒドの濃度が高くなる傾向があります。
 ホルムアルデヒド以外にも、有害な化学物質は水分との親和性が高いので、湿気と共に、あるいは水分に溶け込んで室内の空気環境を汚染するのです。合板ビニールで囲った窒息住宅は、湿気と化学物質の巣となってしまうのです。
 こうした問題に対処するため、機械換気が原則義務化されましたが、健康な体に医者が不要なように、本来、家も健康であれば換気システムという呼吸器は必要ありません。換気システムは病気の人に付ける人工呼吸器と同じなのです。

 湿気を化学的に研究した結果、湿気の移動が空気を浄化することが証明されました。湿気は常に動いています。動きを止めた場所には必ず結露が起き、カビ・ダニが発生します。住宅に起こる問題は、90%が「湿気の移動」つまり「住宅の呼吸」によって解決するのです。
 50年前に仮設として生まれたプレハブや2×4が、基本構造を変えないままビニールシートによって壁体内結露を防ごうとしたのですが、20〜30年の年月の中で壁の中に蒸れ腐れを発生させていることは既に触れた通りです。湿気を完全に遮断しようとするのは人間の驕りであり、長期間においては不可能なのです。
 換気を不要とした「特別評価20条の7」はWB工法の認定後、49日で法律の姿を変えてしまったため、我々は再度この特例を取得しなければなりません。未来の子供たちのために、法的にも裏付けを得る形で安心安全を提供していかなければならないと考えます。
 上記二つの表はこれまで述べてきた日本住宅の問題点を総合評価したものです。
 賢者は歴史に学びます。住宅の良し悪しを判断するのは施主である貴方です。。施主の責任として賢く選択していただくことを切に願います。・・寺島今朝成 拝