はじめに
日本の木造建築文化は類を見ないほどの大変質の高い技術によって支えられてきました。家は、「高温多湿で四季があり、地震も多い」という日本特有の風土の中で、住む人の健康と、安全を守ってきました。
1300年以上の歴史を持つ日本の木造建築は、近年家の造り方に省エネルギー性、均一性、大量生産性等を追求し、その姿を変えてきました。様々な新建材が使われるようになり、高気密、高断熱化してきた住宅は、日本の木造建築文化である日本式住宅とは全く別のものと言っても良いでしょう(厚生労働省の所見)。
”質より量”の弊害は衣食住を問わず、至る所に出てきています。そして、こうした風潮が日本の建築文化の歴史までも変えてしまったのです。国土交通省が進める住宅は高気密で、ペットボトルや潜水艦のような造りとなり、温度も、湿度も、化学物質も、臭いも、家の中に閉じ込めてしまったのです。そして、新築病(シックハウス症候群)といった新しい病気まで作ってしまいました。今この病気が蔓延し、家は窒息しています。
国もこの事態を重く見て各省庁へその対策を指示し法律化してきています。しかしその原因の解明をしないまま、小手先の対応(24時間換気義務化)をし法律へと結びつけています。これは悪の根源を容認したこととなり、企業優先、建築主不在と言っても過言ではありません。
このような家の窒息を解決するには、家に呼吸をさせることが絶対条件となります。家を「容器」と考えず「生き物」として捉える必要があるのです。日本の木造建築文化である「家の呼吸」は、家の劣化、構造の安定、省エネルギー、化学物質、室内環境等、すべての問題を解決してくれます。
日本の家は海外と比べると小さく「ウサギ小屋」とまで言われています。家が小さいと必然的に酸素量は少なく、湿度は高くなり化学物質の濃度も高くなります。暑さ寒さも家の容積が少ないため、より極端に現れます。
「隣の芝生は青く見える」と言いますが、戦後一貫して外国文化を崇拝して無条件に取り入れてきた後遺症ではないでしょうか。近年、貿易の自由化により住宅までもが輸入されるようになりましたが、経済性と合理性のみ追求した住宅は日本の風土には合わない全く別のものだったのです。”量から質”へと目を向けない限り、新築病(シックハウス症候群)のない健康住宅を求めることはできません。
新築された家からは二代、三代にわたり子孫が生まれ育ち、巣立っていきます。家族にとって健康が何よりの財産ではないでしょうか。
通気断熱WB工法の概念
日本には世界に誇るべき建築文化の木造建築があります。木材を家づくりに生かす心と技が、歴史や風土に培われてきました。この木造建築が持つ英知の集積を学ぶことは人類的課題と言ってもいいでしょう。
一年を通じて高い湿度、世界有数の降雨量、著しい冬の寒冷、夏の高温、またその温度差という建築物にとって極めて厳しい条件の下、100年200年と時が育てた木の生命力は、気候風土に適応する住まいの力へと姿を変え、私たち日本人の生活を守ってきました。
在来工法の最も優れた点の一つに、木材の持つ調湿能力を生かしていることが上げられます。木は湿気を吸い込んでは吐き出し、また湿度が高くなれば吸い調質しています。
通気断熱WB工法は、このような木材の調湿能力を生かしながら、さらに機械換気装置に頼らず独自の通気システムを構築し、まるで家自体が呼吸しているように自然な通気制御を実現しています。
通気断熱WB工法は、進化した在来工法なのです。
WB工法のWとはダブルの通気層、Bとはビルダーとブレス(呼吸)を表します。
通気断熱「WB工法」の定義
1.木造建築を基本とする
木が持つ調湿能力を生かす構造体を構築します。
2.壁体内に通気層を設け、二重の通気層構造とする
外壁と内壁の間に第一通気層を設け、内壁の中に第二通気層を設けます。第二通気層には「気管呼吸」の役目をさせます。
3.部屋の壁は透湿性とする
部屋の壁には透湿性の素材を用い「皮膚呼吸」の役目をさせます。
4.気候に応じた通気性を計る
「形状記憶式自動開閉装置」を用い夏は冷却層に、冬は保温層に制御し、通気層によって断熱効果を生み出します。
5.家屋内の気流を制御する
部屋は「省エネ君ヨドマーズ」で、階段や吹き抜けは「サイクルフロー(空気対流扇)」で、天井付近と床付近の温度差を解消します。
通気断熱の原点
私たち人間は、自分自身が快適に生活するために衣服に吸湿性の高い綿や、保温効果の高い羊毛を選びます。寒ければ重ね着をし、暑ければ脱いで調節をします。蒸し暑くて汗をかけば下着が汗を吸い取って発散させるような湿度の調節も、ごく自然に行っています。
家も人間と同様に汗をかき、気温変化にも大きく影響を受けています。通気断熱WB工法の原点は、家づくりに人間と衣服との関係と同じ考え方をすることです。
オールシーズンの家
日本には四季があり、その気候条件によって室内環境は大きく影響を受けます。気候の変化に対して家が呼吸をして、室内の温度や湿度を制御する仕組みが通気断熱WB工法の「皮膚呼吸」と「気管呼吸」です。
「皮膚呼吸」はちょうど下着のように、壁が水分を吸います。「気管呼吸」は壁を通じて排出された湿気を棟へと回します。内壁層に設けた通気層を夏は開放して冷却層にし、冬は閉じて保温層になり、人間が着替えるように温度を調節します。
「皮膚呼吸」と「気管呼吸」は家づくりの原点であり絶対不可欠なのです。
在来工法について
右図のように日本の建築文化である在来工法が行ってきた構造は、家の健康と夏の焼け込に対し、一定の効果があったのですが、冬の寒さ対策は野放しの状態(夏向きの家)でした。
高気密高断熱について
現在行われている省エネ住宅「高気密高断熱」は冬の暖かさのみを追求した構造であるため、「気管呼吸」も「皮膚呼吸」も止めた造りとなっています。
家の呼吸とは
家が呼吸すると言うと、一般的にすき間のある家と考えられがちです。しかし家の呼吸はすき間ではありません。
家の呼吸とは室内の壁の透湿「皮膚呼吸」と、必要に応じて通気をコントロールする「気管呼吸」のことを言います。
人間は呼吸し、たくさんの水分を必要とし、発散しています。また住まいには、化学物質、臭いも同様に生じるので、「家の呼吸」が絶対条件であることを十分理解して頂かなくてはなりません。
そこで勘違いしないで頂きたいことは、「私の家は換気システム(機械換気)を取り入れているので家が呼吸している。」という考え方です。むしろ機械換気を取り付けなければ住むことができない不健康な家と考えるべきなのです。
家の呼吸により、木材・壁が湿気を吸収・放出します。例えば40坪の住宅では、どれ位の木材と壁面積で、どれ位の水分が自然に吸放出できるのでしょうか。木材は1坪当たり約2.3石が使われるので、1棟で92石となります。平均的木材の含水率を15%から30%とすると、92石の木材は約2000Lの水分量となります。壁は40坪で約500uあり(石膏1.2mm)1u/2Lの水分を級放出しますので、約1000Lの水分量となります。つまり40坪の家は、合計3000Lもの調質能力を持つことができるのです。
生活の中から放出される水分量
1家4人で生活している場合、1日約6Lno水分が発散されます(洗濯物、観葉植物等含む)。冬場、締め切った家の中で暖房をし、毎日6Lの水分の発散を想像していただければ、家の呼吸がいかに大切かが分かります。
人間も家も同じです。「皮膚呼吸」と「気管呼吸」によって健康に生きています。呼吸のできない素材(ビニールクロス・合板べニア・発泡ウレタン等)による「窒息気密住宅(後述)」は、人が下着にナイロン、上着にビニール合羽を着た状態と同じなのです。
窒息気密住宅
窒息気密住宅の原因
住宅において窒息とは、透湿性のない材料(合板・ベニヤ・ビニールシート・発泡ウレタン等)によって家全体を囲ってしまい通気ができなくなった状態のことです。壁体内通気層による「気管呼吸」を止めて暖かさを求める構造と室内の壁をビニールクロス(防湿)によって仕上げた住宅を「窒息気密住宅」といいます。
非透湿性素材の使用によって完成した構造は窒息状態となり、窒息住宅では物を保存する容器のようになっています。この容器が様々な問題を引き起こす原因となっています。これから提示する蒸れ腐れ、夏の暑さ、結露、省エネ等の問題を解決するために、家の隅々に渡り窒息状態を取り除かなくてはなりません。
家づくりの大原則は呼吸です。人間は”物”ではなく”生き物”なのです。
窒息気密住宅の歴史
昭和45年頃まで日本の家は夏向きに造られ、壁(土壁)や木材が呼吸できる日本建築文化そのものでした。家造りに大手資本が参入し始め、家は合板によって囲われるようになり、構造的に窒息の第一歩となりました。また、内装下地材に石膏ボードが開発され、室内の気密は一段と高くなり、仕上げ材としてビニールクロスが開発され、その普及によって室内は窒息状態となったのです。
折しも地球環境保護が叫ばれ、住宅にも省エネルギーが求められるようになり、ハウスメーカーの合板気密住宅は時代に適合した住宅と見なされ、日本建築文化である在来工法は不適合住宅として法律的にも厳しい状態となってしまいます。健康住宅だった在来工法にも高気密断熱住宅が開発され現在に至っています。
表面的快適さを求めるがため、あまりにも安易な方法によって気密を進めた結果、家は窒息気密住宅となりシックハウスという新たな病気まで発生させてしまったのです。
解決法
窒息気密住宅の解消は「家の呼吸」の一言に尽きます。夏、家は直射日光を受け50℃から65℃の受熱をします、その熱が壁体内に上昇気流を起こさせ、室内壁への湿気の透湿「皮膚呼吸」を促進します。また、壁体内に上昇気流は床下の冷気を引き上げますので、床下の湿気は除かれて淀んだ部分の空気はなくなり窒息の解決となります。
冬はどうなるのかという疑問があります。冬場、各ポイントの通気層が閉じられ保温層とするため、冬は窒息してしまうと思われがちですが、家が持っている調質能力は想像を超えたものがあります。窒息材によって止められなければ、十分な調質効果を発揮します。例えば40坪に4人家族で住んで水分を発散させても、500日は吸ってくれるのです。
室内環境
室内環境の悪化の原因
室内環境の問題は、人が家に住むことによって始まります。化学物質がこもっても、人が住まなければ問題になりません。水分も室内には出ません。家を建てる以上、人が住むことは当然であり、住むために家を造るのです。これは当たり前であるために忘れられているのではないでしょうか。
家が完成した時点で、室内にこもるホルムアルデヒドの濃度は厚生労働省が定める指針値0.1mg/m3(0.08ppm)以下でなくてはならないことは当然のことですが、窒息気密化が原因となり高濃度でこもってしまうのです。
室内環境の悪化は化学物質だけではありません。毎日の生活から出し続ける水分、臭い、持ち込まれる殺虫剤、芳香剤、抗菌剤、暖房時・調理時の燃焼ガス、住む人の二酸化炭素、その他様々です。これらの物質が毎日家の中に放出されて、その処理のできない家造りが原因となっています。
高気密高断熱住宅の計画換気とは
計画換気とは機械換気のことを言い、換気システムとも言います。窒息気密住宅になってしまった住宅の空気を強制的に機械によって入れ替え、また循環させる仕組みです。これは例えるなら病人に取り付けられる生命維持装置と同じであり、新築時から生命維持装置を取付けなければ住めない家が「窒息気密住宅」です。
計画換気の問題点
高気密住宅に機械換気が取り付けられるようになってから10数年が経過しています。今その機械換気内からカビ、ダニの死骸、糞、ホコリが吹き出され、ハウスダストとなってアレルギー、アトピー、喘息等が引き起こされています。他にも音の問題、臭いの問題、湿度調整の問題、ウイルスの問題、化学物質等続々と問題が指摘されています。
化学物質がこもる原因
化学物質はなぜこれほどに室内にこもるようになってしまったのでしょうか。厚生労働省の所見が示す通り、近年の住宅は施工者が経済性と合理性を端的に追及したため、様々な建材の使い方が間違ってしまいました。その結果、窒息気密住宅となってしまったことが一番の原因と言えます。
建材の一つ一つが良くないのでは決してありません。悪いのは家全体を合板で囲い、ビニールを貼り、ビニールクロスで部屋を仕上げたことなのです。
窒息気密とは大きな風船の中に家を入れたのと同じ状態
住宅にこもる化学物質の中で「シックハウス症候群」を引き起こしている物質は主にホルムアルデヒドと言われています。ホルムアルデヒドは40%の水溶液でホルマリンとなります。
このホルマリンは物を腐らせない、虫を寄せ付けない、接着力の強化等に効果があるため、合板や接着剤など大半の住宅、家具等に使われています。
ホルマリンは大切な家を虫や蒸れ腐れから守ってきました。家から虫が出て殺虫剤を持って駆除に奔走したことのある方も多いのではないでしょうか。
今そのホルマリンが悪者にされ、建物から消されようとしています。目先のことだけにとらわれ、虫が出れば薬品を使い、害を及ぼせばその薬品を追放し、また他の薬品を使い、新たな病気が生まれます。そのたびに多額のお金を投資した家が蒸れ腐れ、虫に食われ、さらには住む人が病気になってしまうのです。それも10年、20年を経てやっと原因が分かります。犠牲者(モルモット)は私達なのです。
国の方針がおかしい
何百万、何千万人という被害者を出している「シックハウス症候群」。国はその対策として、住宅性能表示を法律化し、今回その一部を改正しました。主にシックハウス症候群対策によるガイドラインが打ち出されました。その内容は省エネルギー化を図るための手段と経過の中で窒息気密住宅となった事を究明するのではなく、その構造と悪の根源を容認した中での評価計算方をし、その数値が評価基準のガイドラインとなっています。
一度掛け違ったボタンは原点へ戻さない限り修正は不可能です。正しい家造りを今こそ見直す時です。
解決法
室内環境悪化の解決は、大きく次の二つに分けられます。
1.新築時における化学物質濃度を極限まで減らす。
新築時における室内化学物質汚染が大きな社会問題となり、国はその解決方法を品確法の性能表示で新築時における実測に踏み切りました。今のところこれといった解決方法のない中で、通気断熱WB工法は家に呼吸させつことによって建材にF2、E1を使用しても強制換気なしで解決できたのです。
ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼン等の室内汚染度に関わる「新築住宅20棟測定」の結果では、家に呼吸をさせる通気断熱WB工法の家は厚生労働省が定める指針値の1/2〜1/10であることが実証されています。
また「ホルムアルデヒドの濃度変化に関する予備実験」で示す通り、家が呼吸をしていれば改めてホルマリンを部屋に放散させても2日ほどでほとんどなくなってしまいます。
家の呼吸とは家にすき間があるのではありません。透湿材の壁により「皮膚呼吸」をさせることで室内にこもる化学物質は解決できるのです。
2.生活時における湿気、臭い、化学物質、音、ハウスダスト、暑さ寒さ等を制御する。
通気断熱WB工法の「息をする家」は、人が生活の中で発散する水分(湿気)の中に溶け込んでいるホルムアルデヒド、他化学物質、臭い等を、部屋の壁が「皮膚呼吸」で吸い、壁の中の通気層が「気管呼吸」で棟へ排出していくという二つの呼吸により、室内にこもらない構造です。
また形状記憶式自動開閉装置により、夏は通気を開放して冷却層とし、冬は通気を止め保温層とすることで、外気の暑さ寒さに影響されずに室内温度を保ちます。
冬は通気層が閉じるので窒息気密になってしまうように思いますが、、前述の「家の呼吸とは」に示す通り呼吸する家には大量の調質能力があります。40坪で3トンの保水能力は、4人家族で毎日6Lの水分を発散させても500日は吸い続けることができるので、呼吸する構造は「窒息気密住宅」とは違い室内に化学物質等はこもりません。
〜国の見解〜
生活環境問題について国(厚生労働省・国土交通省)は、「生活する環境は住む人の責任」としています。
住宅性能表示の中でB劣化の軽減、D温熱環境、Eの空気環境は、とても密接な関係にあります。しかし住宅性能表示では、あくまで省エネルギー(窒息気密)を最優先しているため問題解決を難しくしています。
近年「プレハブ」合板パネル住宅が造られた時点から家の窒息が始まり、冬窓の結露は当たり前と思い込んでいました。その後、地球環境保護が叫ばれ、省エネルギーが求められた住宅は一段と高気密になり、冬の窓結露はもちろん、室内に化学物質がこもり、アレルギー、アトピー、喘息、目まいといった症状が表れ、「シックハウス症候群」となっています。
このような経過の中でも家の高気密基準が、省エネルギー基準となる数値が打ち出され最悪の生活環境となっています。現在その最悪な状態を改良するため強制換気が行われていますが、強制換気による新たな弊害が続出しています。
〜住宅の歩み〜
住宅が変化してきた経緯を辿って見ると、1300年もの長い歴史を持つ日本建築文化の中で、近年の短い間に生活様式の変化と共に住宅環境が悪化していることが確認できます。
窒息気密化した住宅に起きる多湿によるカビ、ダニの繁殖、その死骸と糞が室内の空気に浮遊し住む人が吸い続けることによって起きる喘息、アレルギー、アトピーも生活環境悪化が大きな原因となっています。その上呼吸ができない住宅は、化学物質が透過せず室内にこもるのでダブルパンチとなり、その合併症が発生する最悪の室内環境を作ってしまったのです。
今、機械換気による生活環境汚染の軽減が行われています。しかし5年〜7年経過した機械やダクトからカビ、ダニの死骸・糞が吹き出され、換気システム(家中空気を回す)によって家中に浮遊させる結果となっています。
気候と住まい
夏蒸し暑く冬寒い原因
夏
真夏時、外気温が30℃から35℃の時点で住宅(屋根・壁)の直射による受熱は50℃〜65℃に達します。この焼け込みが家に入り込み、断熱材(グラスウール)に蓄熱してしまうことが夏暑い最大の原因となっています。
夜涼しくなっても断熱材が熱を放出し続け熱帯夜となってしまうのです。
また2階建ての場合、1階の壁や屋根で焼け込んだ50℃〜65℃の熱気が、上昇気流により2階に押し上げられ、2階が異常に熱くなってしまいます。
夏の暑さの原因は、壁や屋根の焼け込みによる熱気の侵入だったのです。
冬
日本建築伝統の在来工法とプレハブが行っている断熱材の使い方は一時期どの工法もまったく同じで、100mmのグラスウールを壁体内に押し込む方法でした。しかし在来工法は寒く、プレハブは暖かでした。その違いは壁体内に通気が通っているか、通っていないかの違いです。
近年さまざまな暖房機が開発され、それらは室内全体を暖める性能があるので壁自体が暖まり、壁の中に上昇気流が発生し、床下に入ってくる冷たい外気を引き上げ、四方の壁が冷却層となってしまったのです。一方、プレハブは壁の中の空気を止めているため上昇気流が起きず、暖かい室内となっています。
冬の寒さの原因は、壁体内の上昇気流にあったのです。
解決法
夏
壁や屋根で受けた焼け込みによる熱気を、壁体内や小屋裏に入れないよう外通気層(第一通気層)を造り、熱気を逃がします。
また、床下の冷気を有効利用するため、主断熱の内側に通気層(第二通気層)を造り、冷気を引き上げ冷却層とすると共に室内の透過作用により室内の湿気も壁体内から室外へと排出されるため、夏涼しい快適環境となります。
冬
壁体内の上昇気流とコールドドラフトをいかに止めるかが解決のカギとなります。
形状記憶合金を用いた通気制御装置により、通気口を閉じ壁体内を保温層とすることで、暖房した熱を逃がしません。また、夏同様に室内の透過壁が湿気をコントロールし、快適な環境を作り出します。
結 露
結露が起きる原因
窓ガラスに流れる結露、押し入れの中の結露はいやなものです。いやだけで済まされない重大な問題があります。結露によるカビ・ダニ、家の蒸れ腐れ、シックハウス症候群、その全ては窒息気密が原因で始まっています。
結露は、私達が生活の中から発散する湿気が室内にこもり多湿となって、急激な温度差が生じるため窓ガラス等に付着する水滴です。通気が殺された壁の中、皮膚呼吸が止められた部屋の中、空気が淀んだダンスの裏、極端な場合は床のフローリング、小屋裏等さまざまな場所で起きます。この現象は冬だけでなく夏にも起きています。これを「逆結露」と言います。
家が汗をかく結露は、壁が皮膚呼吸できない窒息気密が原因となっています。
夏、冬を問わず人が雨の日にビニール合羽を着た場合、下着はびしょびしょに濡れてしまいます。家も同様で、ビニール及び合板ベニヤによる窒息材は内側から汗をかきます。窒息気密住宅では、一年中厚いセーターを着ながら二重のビニールで囲われた中で毎日大量の水分を発散させているようなものです。
〜素材別結露実験〜
部材の質ごとの結露実験です。
A:釘、金物、ガラスは温度差3℃位から結露が始まります。
B:プラスチック、ビニール系は温度差4.5℃で結露が始まります。
C:木材、紙類は温度差10℃位までは結露は起こりません。
※湿度70%の場合
解決法
結露の解決には、室内の壁を透過性とし、呼吸させることが必要です。通気断熱WB工法は室内の湿気を透湿性の壁による「皮膚呼吸」で壁体内の通気層(気管)へ自然に放出し、結露が極めて少ない住まいを実現できます。
下記は、透湿実験です。熱い紅茶を入れたティーカップの上に石膏ボードに透湿クロスを貼った物お置き、その上に、透明なコップでふたをします。数分後、透明なコップに「湿気」と「香り」が移動し、曇ってきます。この「透過のチカラ」が室内の結露を最小限に抑えてくれるのです。
〜透過しない壁材の場合〜
石膏ボードにビニールクロスを貼った場合は、湿気は透過できません!
時間が経過してもコップの内面に変化はなく、紅茶の湯気はティーカップ内にとどまったままです。(右写真参照)
つまり、「ビニールクロス」を張ると、室内に湿気が充満して、結露現象や住宅の蒸れ腐れといった問題に繋がってしまいます。
これが、結果的に「カビ」、「ダニ」、「VOC」、を室内に滞留・充満・・させて、アレルギーやシックハウスの原因に成ります!!
新たに右図のような「湿気模型」を作りました。
一枚の石膏ボードを二部屋に区切り、片方に「ビニールクロス」を、もう片方に「コットンクロス」を貼って、内部に濡れタオルをぶら下げただけです。
少し時間が経つと、透湿クロスである「コットンクロス」側の湿度は52%くらいまで低下しますが、「ビニールクロス」側ではいつまでたっても85%超の湿度から低下しません。室温によっては内側で結露します。
このように、室内の内側に「ビニールクロス」を使うと、室内の湿気の逃げ場所が無くなり、ひいては窓ガラスやアルミサッシの部分、冷たい押し入れの奥の方で結露し、カビが生えて、ダニが寄って来る原因となります。
詳細はこちらをご参照ください。
さらに、コットンクロスや塗り壁で透湿壁にした場合、壁体内に透過した「湿気」をいかにして屋外へ導き、排出させるか!という構造上の問題が出てきます。
ぜひ、WB HOUSEとは?を参考にしてください。
温度・湿度・結露の関係性
WB工法では、透過のチカラによって結露を最小限に抑えると共に、室内の温度を安定させます。しかし使われる材料や家の間取り、生活スタイルによって、若干の違いはあります。
下記の空気線図は、室内の温度が変化した時、湿度がどのように変化するのかを表しています。温度と湿度の相対関係を知り、お施主様に適切なアドバイスをしてください。
蒸れ腐れ
蒸れ腐れの原因
住宅の蒸れ腐れは、空気が淀み酸素が欠乏して発生した腐敗菌が原因で起こります。住宅に暖かさを求めるために行われた気密化が、呼吸ができない窒息気密となり家全体の空気が淀み、湿気がこもり短期間で木を蒸らして腐らせています。
窒息気密住宅の寿命
上の写真は、築5年の高気密高断熱住宅です。平成13年3月、小屋裏でポタポタと雨が漏れる音がするので見てほしい、との一報で施工業者と瓦屋さんが瓦をはいで調べたところ、黒いルーフィングが乾燥しており「すがもれ」でないことを確認し、さらに瓦棒を取りルーフィングをはいでみると、野地板の上は「アイスバーン」になっておりルーフィングの裏はびっしょり濡れ、野地板は所によって抜けてしまうまでに蒸れていた現場です。
省エネルギー住宅とはいえ、5年でこのような現象になってしまったのでは、施主様はもちろん、施工業者のリスクは大変なものとなります。さらに屋根がこの状態なら土台は・・・、また壁体内に結露が起きていたら・・・。等と不安は広がります。
木は強いもので多少濡れても風通し(通気)が良く呼吸ができれば蒸れ腐れはありません。ビニール、合板といった皮膚呼吸ができない素材で家全体及び室内を囲うことにより蒸れ腐れが発生してしまいます。
解決法
住宅の蒸れ腐れの解決は、家の呼吸の一言に尽きます。日本は世界的にみても1年を通し湿度が高く、気温の高い国です。建築物にとっては大変厳しい条件の中で1300年もの長い間、今もなお美しい姿を見せている法隆寺にはとても不思議な気がします。
参考
右の写真は、長野県佐久市のU邸の土台です。築100年の家ですが、床下の蒸れ腐れ、白アリによる被害はなく、土台、柱、桁は100年を経過しても木がもつねばりがあり健康そのものです。
明治時代は土台を玉石の基礎という「点」で受けていたため木の呼吸が止められることなく100年も呼吸し続けることができた結果と考えます。このお宅も、都市化が進み近隣の地盤が上がりけっして良い条件ではありませんでした。
右下の写真は、このU邸で文化住宅のため浴室、キッチン等の改装が行われ、約20年経過した同じ土台です。通気が止められた土台は、写真に見るようにほとんど蒸れ腐れが生じ土台の原型をとどめていません。
このように、100年経過した住宅から私たちは多くの知恵を学ぶことができます。
日本は経済発展をし、生活様式が一変しました。昔ながらの寒い家で我慢をすることはできません。しかしながら5年〜20年で家が蒸れ腐ってしまったのでは、施主様の経済を圧迫するばかりか、地球資源のサイクルが追いつきません。家に暖かさを求めるため安易な窒息気密でなく、昔からの建築文化を学び、知恵を出して現代の生活様式に合った蒸れ腐れのない住宅でなくてはなりません。
それは呼吸する家、壁の中の通気路を生かした構造材に万遍なく空気が行き届く通気断熱WB工法と考えます。
省エネルギー
本当の省エネ断熱とは
本当の省エネルギー、断熱住宅のためには、冬期と夏期とで家の気流が変わらなくてはなりません。なぜなら、冬と夏では気候条件が正反対になるからです。冬向きの「高気密」、夏向きの「旧在来」では一方の気候条件しか満たされていません。夏に家が受ける熱は50℃〜65℃となります。その熱を自然の対流によって放出する構造が本当の省エネ住宅です。冬は家の中に大量の水分が発散されます。その水分を放出しながら、熱は放出しない構造が本当の省エネ住宅です。
省エネ断熱には「家の呼吸」が必要です。呼吸とは室内のすき間ではありません。透湿性のある壁による「皮膚呼吸」と壁体内の通気層による「気管支呼吸」による家自体の自然な呼吸のことです。
省エネ断熱にはまた「気管呼吸」の制御が必要です。動力を使うことなく自然の熱を感知して自動的に冬は閉じ、夏は開放させる装置が必要となります。これが「形状記憶合金」による自動開閉装置です。
室内環境での解説のように、省エネ断熱は住む人の健康と密接な関係にあります。窒息気密住宅は人が住めない実験棟のようなものです。
浪エネルギー工法
@日本建築文化の在来工法は夏向きの構造のため夏は快適ですが、冬は1室を暖房するだけでも大量のエネルギーが必要であり、各室に温度差が生じ健康省エネとはいえません。
A最近の高気密高断熱工法は、冬は一様に暖かくなりますが、室内にこもる湿度、化学物質等の問題解決のため、強制換気を行わなくてはなりません。せっかく暖めた空気を外に捨て、冷たい空気を入れるため、その熱ロスと24時間365日の換気運転によるランニングコストと機械換気設備費等は省エネとはほど遠いものとなっています。また夏は家が受熱する50℃〜65℃をそのまま抱え込んでしまうため、エアコンなしでは住めない住宅となり、これも省エネとは程遠くなっています。
本当の健康と省エネ断熱住宅とは
住む人の健康と、家の寿命と省エネルギーは、切り離して考えることはできません。その3つの要素を切り離して造られてきたのがプレハブ、高気密住宅です。省エネルギーのみを追求し、住む人の健康と家の寿命を置き去りにしてしまいました。これはボタンを掛け違った洋服と同じで、元に戻さない限り本当の健康と省エネはあり得ません。
そしてもう一つ大切なことは、室内の気流をどう扱うかです。冬暖かさを求める中で私たちは一番単純で一番大きな要因を見逃していました。
それは暖かい空気は必ず上昇するということです。当たり前のことですが忘れています。例えば私たちが家に入っただけで36℃の暖房機となります。また電灯、テレビ、冷蔵庫等の熱源はあらゆる所にあります。その熱源から発生した暖気は階段を上がり、2階ホールの天井から消えてゆくのです。
暖かさとして感じることのない所で上昇気流がが起き、その上昇気流が床の冷たい空気を動かしています。このような現象が起きていることも知らずに寒いといって暖房を強くするのですから、上昇気流による床の冷えは何十倍にもなり、住む人の足腰を冷やし続けていたのです。
上昇気流が引き起こす袖風を隙間風と間違え、家全体にビニールを張り目貼りをした窒息気密住宅の誕生となっています。自然界に起きる上昇気流と、冷たい空気が重く下におりるコールドドラフト、夏家が受ける熱量等、その扱いを間違えると省エネどころか大変な浪エネルギー不健康住宅となってしまいます。
通気断熱WB工法が省エネばかりを追求した窒息気密住宅と大きく違うのは家と人の健康に必要な「家の呼吸」を構造の基本としていることです。通気断熱WB工法は室内の壁で透湿気密をつくり、壁体内通気層を自然に制御することで本当の健康と省エネ住宅を実現しています。
発想の転換
断熱を物体によって遮断するのではなく、空気に行わせるのが通気断熱WB工法です。
夏は主段熱の内側にある通気層に床下の冷気が緩やかに引き上げられ「空冷断熱」となり、焼け込を放出します。日中窓を閉め切り、「外の熱気をいれないようにし、階段室に取り付けられたサイクルフロー(空気対流扇)を上向きで回転する(空気を引き上げる)ことによって床下の冷気が引き上げられ2階ホールのランマから放出します。
冬はその通気層の入口と出口が絞られ「保温断熱」住宅となります。家の中に起きる上昇気流を止めれば家は暖かくなります。止め方は、階段室にサイクルフロー(空気対流扇)を取りつけ、下向きに圧力をかけてください。
室内の暖かさは、体に風を感じることなく部屋の中の気圧を変える省エネ君ヨドマーズを取付けることによって実現します。床と天井の温度差は0℃〜3℃になります。
おわりに
住宅において、建物の造り方が変化をしてきた経過をたどり、経済的に豊かになった生活様式の変化を順を追って振り返えってみますと、現在行われている家の造り方の中で何が良くて何が悪い影響を与えているのか、おぼろ気に見えてきます。
住宅の造り方が基本的に変わり始めて数十年、現在では高気密をうたわなくとも室内は高気密になっています。これは実際に現場で仕事をしている私共大工が一番良く知っているのではないでしょうか。
冬場における暖房機も目まぐるしい発展をしました。石油ストーブが開発され開放型反射ストーブから、開放型ファンヒーター、住宅は合板・ビニールクロスによって窒息気密化し、開放型の暖房によって室内に排気ガスをまきちらす結果となりましたが、人はそこに住み続けたのです。
こうして振り返ってみますと、シックハウス症候群という病気になっても不思議ではありません。長い年月の中で私達の住環境は、便利さを求めて真綿で首を絞められるがごとく悪化してきたのです。そいてやっと、その悪化した住環境に気づき改善すべき対策を取り始めました。
空気は目に見えないだけに管理しにくいので注意が必要です。家造りをしていく上でどのような施工判断をすれば良いのか今だにはっきりしていません。厚生労働省は人体に害を及ぼす物質の種類とその濃度の指針値を明示しました。これは大きな前進であると思います。私達建設業者はその指針値を超えない住宅造りと測定を行い、建築主に住環境を提供する義務があります。国土交通省が行っている性能表示とその評価には矛盾点が多すぎ、片方を立てれば他の片方が立ちません。このように立法化をしながら法律は強制義務化ではなく建主と施工者の任意としています。国の方針をうのみにするわけにはいきません。最後に責任を負うのは私達施工業者なのです。
通気断熱WB工法は、壁体内自然換気システムであり家の呼吸を促進する構造となっています。呼吸は室内の空気を清浄にしてくれます。室内においては対流扇によって気流の調整をし、暖房と冷房の効率をアップします。その2つの気流を制御することによって自然と共存しています。
ここで勘違いをしないでいただきたいことは、通気断熱WB工法は熱源なしで冬も夏も、春秋と同じに過ごせると思い込んでしまうことです。たしかに、少量のエネルギーで冬は温かく結露もなく、夏はエアコンがほとんど必要ないくらい涼しくなります。化学物質は四季を通し厚生労働省指針値の1/2から1/10程度の数値を測定しています。家が呼吸することによって多くの問題が解決されており、入居後も最良の状態を測定値が示しています。しかし入梅時、真夏時は住む人の使い方によって体感は大きく異なり、自然換気システムでの暑さ寒さの対応には限度があります。
快適に過ごすためには、わずかな補助が必要であることをご承知おきください。
WB工法 施工マニュアル「解説編」より転載